◆9曲目「紫陽花の色が変わるとき」
―私は、思い違いをしていたんだ―
多汰美と邂逅したその日に見た夢をイメージしています。
「Noise」もその色が強いのですが、あっちは伊鈴の心の動きを描いたとするとこの曲は夢の「風景」でしょうか。
今までそれが当然であるかのように断絶された世界を生きてきた伊鈴。
だれからも認知されることの無い。自分から声を発しても気づかれることの無い。
そんな生きていても仕方ないような世界に生かされている。
仕方ない。仕方ない。と、店の前を掃除しながら諦観していた少女に訪れた一瞬の出来事。
それが事実であるのかどうかはわかりません。
伊鈴の勘違いであるかもしれない(むしろ勘違いである可能性はとても高い)。
伊鈴自身もこれは勘違いかもしれない。そう思いながらもどこかでこのきっかけを信じずにはいられなかった。
あの時の多汰美の存在は、まるで救いのようだった――。
何も無い世界に響くピアノの音は、世界から無視され、たった独りで存在し続けていた彼女の独白。
その独白は彼女の夢の中で確かに色を変え、そして暖かい世界の中に溶け込まれていく。
紫陽花は土の酸度によって色が変わりますが、どちらかというと
「伊鈴の心が変化した」という意味合いを含ませたつもりです。
「紫陽花の色がかわるとき」とはつまり、「伊鈴の心がかわるとき」でもあるのです。
そして、彼女は一つの答えを持って、翌日を迎えます。